書評
 その機能と臨床 第4版

 肩の世界的権威、信原克哉先生の名著『肩 その機能と臨床』の第4版。
 信原先生には、月刊スポーツメディスンがまだ季刊(Sportsmedicine Quarterly)のころ、渡會公治先生との対談で初めてお目にかかった。夕方から対談という予定になっていたが、まずは食事をと病院がある敷地内のレストランに案内されたが、ビールも出てきて、内心「これは困ったな」と思った。お酒が入ると、対談は「ゆるく」なりがち。おまけに信原先生は「今日はもうええでしょ」と、みんなで飲みに行き、カラオケ。トリを先生が務め、見事な歌声を披露された。
 対談は、ちゃんと翌日行ってもらった。うって変わって厳しい表情で、「肩」について、渡會先生と議論がなされた。ジャズバンドを編成、CDも作り、ニューオリンズの名誉市民であり、院内にはコンサートホールまである。また楽器の蒐集家でもある。圧倒された一泊二日であった。
 以来、懇意にさせていただき、先生の著書、明智光秀の本や相撲にまつわる本の出版のお手伝いもしたし、月刊スポーツメディスンで「信原克哉 肩を語る」という特集も組んだ。登場するのは先生お一人で、生い立ちから現在まで、また肩の研究についても詳細に紹介した。おかげさまでこの号は完売した。
 信原先生には、『肩 その機能と臨床』の第3版はいただいた。B5版554ページのハードカバー。その序にいわく、「第2版が世に出てからはや14年の歳月が流れた。実は第3版は数年前に書き終えていたのである。しかし、読み直してみるとそれは旧版を焼き直した旧態依然のもので、私自身そこからは何の感動も得られなかった」。
 経験された方にはわかるだろうが、一度完成させた原稿を初めからやり直すのは大変なエネルギーと決意がいる。第3版は、「“ライフワークとしてこの原稿は渡せない”と考えた私は、全く新しい布地に肩を描こうと決意した」。それから完成まで数年。そして「自分の手になる第4版は望むべくもない」と記された。2001年のことである。この第3版は2004年に英訳され“THE SHOULDER-Its Function and Clinical Aspects”の書名で刊行、英国医学会が優れた医学書として顕彰するHighly Commended Orthopaedics(優秀図書賞:整形外科部門)を受賞した。
 第1版が1979年、第2版が1987年、初版から33年、第3版から11年を経て、第4版が刊行された。判型はA4判になり、第3版同様オールカラーだが、モノクロページはより少なくなったように思われる。引用文献数2296(第3版は1539)。膨大であり、かつ豪華絢爛と言いたくなるような大著である。帯に「肩関節外科のパイオニアによる珠玉の名著 四たび!」とあるのも簡潔にして的を射ている。第4版の序で「この11年間の大きな変化は発表された論文の多さであった」と記されているが、引用文献数にそれが現れ、さらに、「毎年平均500例ほど行ってきた肩の手術は11年間で4,413件にも達していた。腱板の修復例は1970年開院以来の4,653件を超えた」という。そこから第4版が生まれた。

肩 その機能と臨床 第4版
信原克哉 著
A4判 544頁
18,000円+税
医学書院
2012年10月1日刊
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 近年、医学書は共著が多数を占め、なかには数十人による共著書も珍しくはない。本書のような一人の著者が数百ページにも及ぶ大著をまとめることは稀になっている。編集、レイアウト、作図、校正も含め、院内のスタッフの方が協力、非常に完成度が高いのも本書の特徴。また、誰もが気がつくことだが、本書は医学書であるが、「第1章 肩とは」にみることができるように、ユーモアと知識の深さに満ちていて、そこでも著者の大きさに感嘆させられる。
 病院にバイオメカニクス研究所を併設し、斬新な研究成果が出され続けているが、あるとき、なぜこれほどのデータを集められるのかと聞いたら、「なんででしょうね。集めるのが好きなんでしょう」とのお答え。
 そういえば、趣味の域を超えて蒐集されている「布袋さん」像は、目標の3333体を超え、3400体以上にもなっているとか。
 「望むべくもなかった」第4版、その内容については私がどうこう言うまでもない。「多くの人に読んでもらうため装丁は簡略なものにした」とお手紙をいただいたが、それはハードカバーからソフトカバーに変わった点であろう。いずれにしてもずっしり重く、聞くところによると、すでに増刷が決まったとか。さらに「多くの人」に読まれることであろう。
(清家)